ベイルートインタビュー

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ー今回のアルバムでは『イースト・ハーレム』と『サンタフェ』という、地名をタイトルにした2曲が並んでいるのが印象的でした。その2つの場所は、あなたにとって重要な場所なんですか?

Zach:実はそれ、逆の場所で書いたんだ(笑)。つまり『サンタフェ』はニューヨークで書いて、『イースト・ハーレム』はサンタフェで書いてる。ニューヨークにいると、どうしてもサンタフェが恋しくなるし、サンタフェにいるとニューヨークが恋しくなるんだ。『イースト・ハーレム』は、もともと僕が17歳ぐらいで書いた曲。僕が昔作った曲を弟が全部きちっとまとめておいてくれて、それを聴き直していたらこの曲が出てきて、そこにちょっと手を加えたんだ。

ーサンタフェとニューヨークでは、街の雰囲気も受ける刺激も全然ちがうと思うのですが、あなたにとって今住んでいるブルックリン(注1)はどういう街ですか?

Zach:10代の頃に自分がすごく感じていたのは、ずっと生まれた街にいると外からの影響が感じられないな、っていうことだった。ブルックリンは、良い意味での競争心みたいなものを掻き立てられるよ。他のバンドを観に行ったりして、〈自分ももっと成長していかなくちゃ!〉っていう良い刺激を受けるんだ。

ーでも、そういう刺激が時としてプレッシャーになったりしませんか?

Zach:うん。そういうところもあるね。ニューヨークのミュージシャンを見ていると、みんな仕事に対する意識が高いなって驚かされて、〈僕ももっと頑張って仕事をしなきゃ〉って気持ちになる。

Perrin:そりゃ僕だって、ヨーロッパのアコーディオン奏者を見る度に自分が恥ずかしくなるからね(笑)

ーペリンはザックとトクマルシューゴの両方とプレイしていますが、2人に共通点はありますか?

Perrin:2人ともすごく才能あふれるアーティストだと思うし、またすごく想像力豊かな人達だと思う。とても大きな音楽、オーケストラみたいな音楽が頭のなかにあって、それをうまく出すことができるんじゃないのかな。とにかく、アートに対して本当に真剣に取り組んでいる人たちだと思うから、一人の音楽ファンとして彼らは欠かせない存在だよ。

(注1)アメリカでトクマルのサポートメンバーをした元beirutのジョン・ナチェス、The Nationalのブライアン・デヴェンドーフ、そしてペリンなどは皆ブルックリンに在住していた。その他にも多くのミュージシャンがマンハッタンの隣町のブルックリンに在住している。

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ー10代の頃って、どんな暮らしを送ってました?

Zach:もう、ほんとに独りだった。

トクマル:ペリンとはいつ出会ったの?

Zach:2人ともハイスクールをドロップ・アウトして、ハーゲンダッツでバイトしてたんだ(笑)

Perrin:確か君が18~19歳ぐらいで、僕が20歳だったな。

Zach:で、バイトの後に、彼が店の外でヴィオラを弾いてたんだ。そこで音楽の話を始めて、〈よし、こいつだったらエキセントリックだから大丈夫だぞ〉みたいな(笑)

Perrin:さっきザックが映画館でバイトしてたって言っただろ? 僕はそこの映画館の前で雷に打たれたんだよ!

Zach:それでこういう髪型になったんだ(笑)

Perrin:この髪型はオリジナルだって(笑)。雷に打たれたのは本当の話だよ。

ー無事で良かったです(笑)でも、サンタフェでヴィオラを弾いてる人は、やっぱり珍しかったですか?

Perrin:実はヴィオラが弾けたわけじゃないんだ。

Zach:〈あ、ヴィオラできるんだ〉って僕が話しかけたら、〈いや、弾けないけど、昨日たまたま手に入れて〉って(笑)

Perrin:その頃、ザックはアンダーグラウンドのウェアハウス・パーティでプレイしてた。

Zach:その頃は、まだバンドはいなかったから、ラップトップを持って行って、それをプレイしながらトランペットをやったりウクレレをやったりしてたんだ。

Perrin:そこである日、ザックの弟が突然ドラムを叩き出したんだけど、タイミングを全部外してて(笑)それを見てて〈あ、これなら僕もいけるかも〉って思ったから、ザックに〈僕もスネアを持って来たら、やっていいかな?〉って話をして、スネアを持って来てタイミングを外しながらやってたんだ。それが始まりだったんだけど、まさかバンドを組むとは思わなかったな。

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ーちなみに、その頃はどんなバンドを観てたんですか?

Zach:ニュー・メキシコ(サンタフェがある州)なんて誰も来なかったよ!(笑)

Perrin:僕はギリアン・ウェルチとかブルーグラスのアーティストを観に、12時間かけて車で行ったことがある。

Zach:僕のファースト・アルバム(『Gulag Orkestar』)をリリースしてくれるきっかけを作ってくれた人が、後から知ったんだけど、僕がすごく好きなバンドの人だったんだ(ニュートラル・ミルク・ホテル(注2)のジェレミー・バーンズ)。その頃はライヴとか全然見に行ったりしていなくて、ひたすら自分の家で音楽を作るだけだったから、そのことに全然気付かなくてね。後から〈あ、そうだったんだ!〉って。

ージェレミーの紹介でBa Da Bing!から『Gulag Orkestar』をリリースしたんですよね。そういえば、あなたは自分のレーベル、ポンペイ・レコーズを立ち上げましたが、その目的は?

Zach:どこかのレーベルに自分が属していると、どうしてもいろんなことをやらされているような気がして仕方ないんだ。〈音楽を作れ〉って言われて作っているんじゃないかって思ったりしてしまう。そんなこと、いい歳の大人が言うことじゃないとは思うんだけどね。でも、それだったら自分でレーベルをやって、自分でやりたいと思ってやったほうがいいんじゃないかって思ったんだ。

ー今後、ポンペイでやってみたいことはありますか?

Zach:本当ににやりたいことが見つかるまで、そっとしておきたいな(笑)今のような活動をしなくなった時に、昔のブラジルの音楽とかをリイシューしようかな、とか、そういうことをは何となく考えてる。でも、あまりにも先の話かな。

トクマル:いまのザックを見ていると、無理の無い自然な流れの印象があって。元々は一人でやっているのに、外に出ればペリンみたいなメンバーとか、スタッフとか、すごく自分や音楽のことを理解してくれる人たちがいて、それでまたベイルートの音楽を作っていくみたいな、その環境が理想的だと思うんです。

Zach:最近の音楽業界の在り方って、やっぱり昔とは違うのかなって思うんだよね。例えば、レーベルやレコード会社をやっている人達は仕事としてやってるわけだよね。だから、その人達の頭のなかにあるのは音楽というよりも数字なんだよ。〈どれだけ売れるか?〉とか、そういうことのほうが大事で、でも、それが彼らにとっての仕事なんだ。ただ、それに対する僕の仕事は、家で普通に曲を書いて、それを〈ダメかな〉〈いいかな〉〈こういう風にしようかな〉とかいろいろ考えることなんだ。同じ仕事って言葉ではあるけど、やってることは全然違う。

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Perrin:レコード会社の人たちは数字で考えるのが仕事だから、〈ああしなきゃいけない〉〈こうしなきゃいけない〉って思う。それってアーティストの方にも、もちろん伝わるわけで、そういうことに影響されていると、自分としては〈俺、いったい何をやってるのかな? もともと何のために音楽をやろうと思ったのかな?〉って、自分を見失いそうになるんだ。

Zach:そういう事を自分達なりに考えた時に、原点回帰じゃないけど、やっぱりそこで自分に必要なやり方っていうのを考えなきゃいけない、って思ったのが、レーベルを始めることに繋がったのかもね。

(注2)ニュートラル・ミルク・ホテルはオリヴィア・トレマー・コントロールを脱退したジェフ・マンガムが結成したバンド。1990年代からアップルズ・イン・ステレオなどと共にレーベル『エレファント6』を盛り上げた。

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ーじゃあ最後に、お二人からトクマル君に何か訊きたいことはありますか?

トクマル:え!?そうなの?

Zach:よし、じゃあ、変な質問をしちゃおう。〈いつかメロディーを思いつかなくなるんじゃないか〉っていう恐怖感はない?

トクマル:それはもう、3時間ぐらいごとに思ってます(笑)。だから、作り続けないと自信を失っちゃうんです。

Zach:ああ、僕もそうだからすごくわかるよ。

ーその不安を打ち消すために何かしていますか?

Zach:髪の毛を引っぱってる(笑)後は孤独になることで、なんとなく、そこから一歩足を踏み出せそうな気になれるんだ。

ーザックは曲作りでお気に入りのシチュエーションってありますか?

Zach:やっぱり夜遅くかな。ウチってすごく変な家族なんだよ。小さい頃からパジャマは着てなかったし、朝食を食べる時も靴をピシッと履いて、ジャケットやシャツのボタンもきっちりかけるんだ。そんな感じでピアノも弾いちゃうしね。多分、アメリカ人としても、ちょっと不思議な家庭なんじゃないかな。

ーアーティスト一家だと聞いたんですが、結構きっちりしてたんですね。

Zach:カトリックの影響だね。罪の意識をいつも感じてるような。

Perrin:じゃあ、シューゴの一番好きな曲作りの仕方は?

トクマル:寝て、夢で見たバンドの演奏をそのまま録音したりするのが、楽ですごい好き。

Perrin:楽っていうか、すごいね(笑)でも、何かのこだわりや決まりごとに囚われずに、そういうものを全部取っ払って楽しみながら音楽を作って行くと、何か新しいものが出てくるような気がするな。

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【2012年1月23日 雪】

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