ベイルートインタビュー

BEIRUTインタビュー インタビュー・テキスト村尾泰郎
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ーまず、初めての日本の印象は?

Zach(Vocal, Trumpet):フランスやドイツはもう何度も行っているから、なんとなくわかってるようなところがあるんだけど、日本は初めてだから〈こういうところがあるんだ!〉という驚きがいっぱいだよ。

Perrin(Accordion):東京も大阪も良かったし、その間を走っているシンカンセンも、とても速くてクールだった。

Zach:なんか、今まで観てきた日本映画の世界に自分が入ったような感じがするよ。

ー例えばどんな映画?

Zach:なんだろうなあ。僕は黒澤明監督の『乱』が一番好きなんだ。他に『バトル・ロワイヤル』とかも観てるけど……

Perrin:あれはちょっと暴力的だろ(笑)

Zach:そうだね(笑)僕はサンタフェ出身なんだけど、一番最初に就いた仕事が映画館だったんだ。その映画館ではよく外国作品を紹介していて、例えば今週はイタリア映画、次はフランス、日本……って感じだった。そこでいろんな国の映画を観ることができたんだ。

ーそれはいつ頃のこと?

Zach:15歳の頃だったよ。僕はその映画館でポップコーンを売ってたんだ。それで映画はただで観ることができた。

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ーそうやって外国の映画を観ていたことが、ヨーロッパへの憧れに繋がったとか?

Zach:やっぱりサンタフェって、文化的にすごく孤立したところなんだよ。そういう意味では、映画を観ることで、自分の心のなかで他の国に行ってたのかもしれないね。

ーそういう見知らぬ土地や違う文化への憧れは、あなたの創造力の原動力になっていますか?

Zach:僕には二つの大きな体験があって、それが映画と音楽なんだ。実は僕は小さい頃、全然眠れないタチだったんだ。夜眠れないと頭の中でいろんな想像を張り巡らせてしまう。例えば1日映画を観て、その夜眠れないと、映画のいろんなシーンが頭のなかを回ったり、行ったことがないのにそこに行ったような気分になるんだ。(トクマルに)もしかして、不眠症じゃない?すごく緻密な音楽や、深い音楽ってそういう人しか作れないんだよ。

Perrin:僕はよく眠れるから大丈夫(笑)

Zach:でも、楽器をひとつ与えたら眠れないんだよ、彼は(笑)

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ーその後、ザックは実際にフランスに旅行して、そこでバルカン・ミュージックに出会って刺激を受けたわけですが、どんなところに惹かれたんですか?

Zach:ブラス・サウンドだよ。小さい頃に父親からギターを渡されたことがあって、やってみたけどなんとなくピンとこなかったんだ。その後、自分でトランペットをやり始めるようになって、2年経ったらどんどん楽器が好きになった。

ーなぜトランペットに惹かれたんでしょう?

Zach:はっきりとはわからないけど、サンタフェにマリアッチの楽団がいっぱいいたことも関係あるかもね。きっと、ピカピカしてて大きな音が出る楽器がよかったんだよ(笑)。それがトランペットだったんだ。

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ー楽器には愛着があるほうですか?

Zach:うん。とにかく昔から楽器はすごく好きだった。よく曲を書いていた寝室は、ベッドの置き場がなくなるぐらい楽器が溢れかえっていた。だからいつもベッドは壁に立てかけて、夜だけ降ろしてたんだ(笑)

Perrin:シューゴの部屋の写真を見たことがあるよ。鍵盤、鍵盤、鍵盤、そして、鍵盤って感じだった(笑)僕も同じだよ。

トクマル:ベイルートも生楽器をたくさん使ってますよね。生楽器って、センシティヴでアンバランスで、完璧な音が届けられないことも多い。でも、うまくいったときに奇跡的に良い音が出て。僕は生楽器のそういう魅力に取り憑かれているんですけど。

Zach:ライヴで生のピアノを使うと、いつもサウンドのスタッフに叱られるんだよ。やっぱり、生楽器が入ってくるとやりにくいというか、どういうふうに音が転がっていくかわからないからね。そういうことをスタッフから指摘されることが多いけど、僕も君と同じで完璧じゃないものができるのがすごく好きなんだ。音があっちこっちに転がっていっても良いと思うしね。だから、ステージに立った時にはモニターをしないんだ。自分の声も、やっぱりどこか他のところに流れ出していくような、そういう感覚が好きだから。でも、なんで生楽器が好きなんだろうな?

Perrin:生き物だからだよ。やっぱり生ものだっていうところがいいんじゃないかな。生のエネルギーがあるから。

Zach:ピアノって、弾いていても自分の周りに音が生まれるような感じがするな。トランペットは自分の腹から音が出てくるような感覚があって、そこが素晴らしいと思う。そういえば、ウクレレをドラム・スティックで弾いてみたことがあったんだ。

Perrin:フラメンコみたいな音が出るから、結構良いんだよね。

Zach:うまくいった時は最高なんだけど、失敗した時はそりゃ大変(笑)でも、うまくいった時の〈やった!〉っていう気持ちには替えられないんだよね。

ベイルートインタビュー

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トクマル:ベイルートはダイナミックスがすごく強いバンドで、プラス情緒的な要素もあったりして、それがエネルギーとして音に出ていて。それって結構、音楽としては伝統的な手法だと思うんだけど。それが今の多くのポピュラー・ミュージックに欠けている要素であると思っていて。ベイルートは独特だけどそれがすごくうまくできていると思うんですよね。

Zach:最近、スタジオでいわゆるプロと呼ばれるプロデューサーたちと仕事をしたりすることが増えてきたけど、以前は全部一人でやっていたんだ。一人でやっていると自分が〈こうだ〉と思うやり方でできるよね。でも、プロだと〈マイクはこういう風に置くもんだ〉っていうやり方が決まってる。それに合わせるのが自分としてはイヤなんだ。だから、マイクを置かれても、〈僕はこっち!〉って別のところに持っていったりする。そしたら〈ほんとはそうじゃないんだよ、こうなんだよ〉って言われたりして、そういうところで揉めてストレスが溜まったりするんだよね。でも、人間って複雑じゃない? 音楽って作っている人の心が反映されてるわけだから、自分の音楽もやっぱり複雑であるべきなんじゃないかなと思うんだ。

Perrin:音楽って、曲を作っている時に曲が一人で歩き出す瞬間があると思うんだよね。曲をどんどん磨き上げて行くという作業も大切なのかもしれないけど、それをやり過ぎてもよくないと思う。自分が一番最初に思っていたアイデアや考え方を大切にしなきゃいけないんだ。やっているうちにキレイになり過ぎてしまう、っていうのも避けなければいけない。そのやり方、どこで手を離せばいいか、ってこともわかっておかなくちゃいけないんだ。シューゴの音楽を聴いていても感じるんだけど、すごくよくレコーディングできているし、いろんな楽器が入っているけど、でもそれがただ単にきれいに終わってるんじゃなくて、そこには生のエネルギーを感じることができる、やっぱりそこが音楽の素晴らしさだと思う。

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