トクマルシューゴ / 雅楽参観日

トクマルシューゴ / 雅楽参観日
日本の重要無形文化財、宮内庁式部職楽部。言わばロイヤルオーケストラ&ダンサーたちが演じる"雅楽"を、年に一度だけ体験出来るのがこの秋季雅楽演奏会です。一般参観申込で当選すれば誰でも無料で参観が可能です。(ここでは正確な用語ではなく西洋音楽用語(カタカナ)を多様して記述しています。)
トクマルシューゴ / 雅楽日誌
演奏会は三日間行われ、午前と午後の部の一日二回公演ありました。自分が参観したのは午後の部。
皇居前の大手門で厳重な入場チェックを済ませると、そこには立派な江戸城の門。そして、いくつもの重要建築物と広大な公園を横目に会場(楽部庁舎)へ10分ほど歩いて向かいます。普段なかなか立ち入ることのないロイヤルな空間ですね。
トクマルシューゴ / 雅楽日誌

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そしていざ会場内へ。意外と様式な建物です。高く広がる大きな演奏会場。もちろんスピーカー機材などは一切ありません。

席はけっこうギュウギュウに詰められるので広くはないです。柱などもあるので、良い席を確保するためには早めに出向きましょう。
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二階ど真ん中の席は皇室の御方がご覧になられる席もあり、この日は高円宮妃殿下がここにご着席され、御台覧あそばされました。(慣れない敬語を使ってます。)二階廊下では雅楽楽器や衣装の展示も行われていました。
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演奏が始まる10分前くらいに楽器が舞台にセッティングされていきます。

この日の演奏会は二部構成になっていて、一部では管絃(かんげん)という、言わば管弦楽団=オーケストラのような形態をメインに演奏され、二部では舞楽(ぶがく)という舞+音楽、という演目の流れになっていました。

しかし、そもそも「雅楽」とはなんぞやと?

クラシックに「室内楽」や「オペラ」や「舞曲」など様々なジャンルがあるように、
「雅楽」にも管絃(かんげん)朗詠(ろうえい)舞楽(ぶがく)といった様々なジャンルがあります。

「雅楽」とは、音楽の特定のジャンル名というより、「楽、舞、歌」を兼ね備えた生で演じられる芸術の名称ですね。(ただ、やはりそれだと遠く感じてしまうので、自由に考えましょう..。)

また「雅楽」の中でも代表的なものは"洋楽"ならぬ、"唐楽"と呼ばれるものです。
日本の雅楽は奈良時代〜平安初期に中国や朝鮮半島、インド、ベトナムなどより伝来したものと、日本固有の古楽とが結びつき、独自の発展を遂げ10世紀頃に完成されたものだとされています。その歴史はわからないことも多いのですが、バッハやモーツァルトよりも1000年近くも前の時代のものですね。
日本固有というと国風歌舞(くにぶりのうたまい)という舞楽もありますが、我々が目や耳にすることはほとんどありません。「神楽歌」という現在も非公開の儀式もあります。国風歌舞を別格としとても大切にされていることがわかります。
一応、ここでの「雅楽」は、日本雅楽=宮内庁式部職楽部による演目、として記しています。

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※撮影不可のため演奏中の写真はありません。(上写真は当日配布されたパンフレットより拝借しています。)
クラシックのオーケストラのように全16名で演奏される並び順は決まっています。

1列目は打楽器。下手側(左)にあるのが鉦鼓(しょうこ)。 チーンという渋い音がします。真ん中の大きな太鼓が釣太鼓。低い良い鳴りがします。上手側(右)にあるのが鞨鼓(かっこ)で、ポンポンという太鼓の音がします。

2列目は弦楽器。下手側(左)には箏(そう)と呼ばれるお琴(1弦琴とは異なります)が2台。上手側(右)には琵琶(びわ)が2台。

3列目は吹奏楽器。下手側(左)から、龍笛(りゅうてき)が3名。篳篥(ひちりき)が3名。笙(しょう)が3名と、3組ずつ並びます。
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龍笛(りゅうてき)はお祭りなどでも聞かれるお囃子で使われる篠笛(しのぶえ)とは異なるのですが、いわゆる笛の音色です。
篳篥(ひちりき)は東儀秀樹さんで有名になったダブルリード(オーボエなどに近い仕組み)の楽器です。(この日も東儀という名字の楽師の方が三名いらっしゃいましたが、東儀家はなんと1300年以上も世襲を続けていたそうです。)
笙(しょう)は、竹製のリードがたくさん付いた小さなパイプオルガンのような仕組で、息を吹き込んで音を出します。伸びる浮遊感ある和音が特徴的で、アンビエントのように美しいのですが、調律がとても繊細な楽器です。
白いツボは笙の唾抜き用のものです。この壷も高そうです。

そして、舞台の後ろにあるドデカイ2つの大太鼓(下写真)。飾りのようですが、これも演奏に使われます。後ろ側から叩くのですが、ドゥオーーーンというド迫力の見た目に負けない野太い音がします。

ここに出てきた楽器は、どれも演奏もケアも大変難しく、非常に高価なものであり、楽器フェチの自分的にはお目にかかれるだけでも貴重なことなので、非常にワクワクします。

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そして、ゆっくりと上手(右)にある、演目の紙がめくられまして、メンバー(演奏者)が入場してきます。

床に座るとおもむろに曲が始まります。

まず1曲目は、"太食調音取(たいきしちょうのねとり)"という曲。これは音合わせというような短い曲です。ゆっくりと始まるのですが、ただ音合わせの捨て曲ではなく、各楽器の音色を活かした流石のプロローグ。美しい楽器の生音が会場に響き渡ります。

2曲目は "合歓塩(がっかえん)"という雅楽では有名曲。4/4で4小節ごとに進むという割と現代でも解釈しやすい作りの曲ですが、打楽器との絡みが非常にスリリングな楽曲です。エンディングには琵琶の音色が残りクールに終わります。

3曲目は"嘉辰(かしん)"という朗詠曲。笙+篳篥+龍笛の吹奏楽器がメインとなり演奏され、それに幾人か(人数は決まってます)の合唱が乗ります。歌は、その時の管絃の調子によって音程が決まり歌われるようです。

そして、4曲目が1部の最後の曲。"還城楽(げんじょうらく)" という、舞楽で演奏されることの多い有名曲ですが、今回は管絃の部で演奏されました。「蛇が好物の胡国人が蛇を捉え喜ぶ舞(日本音楽史 - 田中健次 P. 49)」だそうです。うーん、曲をわかりやすく言葉で説明できないのがもどかしい。
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あっという間に1部が終わってしまいます。今や西洋音楽の影響が根強い現代の日本人からすると、現代音楽ともとれるような拍子、構成、そして絶妙な楽器のバランスと間をキープしながら演奏されます。初めて体験する人は「なんてアクロバティックで斬新なアレンジ!」と思うかもしれません。

さて、曲が終わると、会場が静まり返ります。はて、雅楽では曲終わりにどう反応すれば良いのか?「あれ?そういえば拍手って日本の文化だっけ?」などとお客は戸惑います。素人のお客さんたちには正解がわかりません。なかなか拍手が起こりません。
すると二階席のど真ん中から、高円宮妃殿下が最初に拍手をし始め、ゆっくり大きな拍手に包まれました。よかった。
そして、ゆっくりメンバーは退場していき、演目の紙がめくられ"休憩"という文字が現れます。
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(パンフレットより)
15分の休憩をはさみ(小部屋ではお茶が振る舞われていました。)二部では舞楽が始まります。

ステージ上の楽器は片付けられ、ステージの最後方部の段に楽器演奏者が並びます。先ほどより人数も増えて18名。そして、ステージに舞の演者が出てきて、舞楽が始まります。

舞楽は、4人の舞いがメインとなります。バックの演奏を聞きながら、ステージ上での踊りを見ることになります。
この日は、"打球楽(たぎゅうらく)"では左方の舞(中国系)、"古鳥蘇(ことりそ)"では右方の舞(朝鮮系)という二種類の舞を見ることが出来ました。よくよく見れば見るほどに不思議な舞です。宮廷の舞というイメージのまま。ちなみに打球(打毬)とはスポーツのポロの大陸版のようなものだそうです。

さきほどの音楽メインの管絃とは違って、アクロバティック(?)な演奏は控えめになり、ゆっくりと大きな楽節をループする楽曲と、寸分違わずにゆっくりと動き回る美しい舞い。自分はこの規則的であり複雑な曲の構成や楽器のフレーズ、舞の細かな動きなどを追っては唸っていたのですが、どうやら客席の様子は、ゆっくりと大きなループを見て数えているうちに「羊が一匹、、」となっていくような空気に包まれていきます。しかし、ふんわり包まれていっては、ドゥヲオオオーーーーン、というハっとするような大太鼓の音で、皆が目を開きます。面白い。

舞楽が終了し、拍手大喝采で演奏会は幕を閉じました。いろいろな感情が溢れ出てきそうになり感動しました。大満足の1時間半。せっかくなので、ここに感想を綴りました。
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帰りはゆっくりと皇居を散策することも出来ずに、黒ずくめの警備警官たちにさっさと出口へ追いやられてしまいますが、皇居のお土産屋さんなどもあり、非常に面白い体験が出来ました。

客層の年齢は高めですが、そこまで厳粛なムードというわけでもなく、普通に見やすい空間です。
ここまで読まれた方には、強く参観の応募をお勧めします!良いリフレッシュにもなりますし。
(text: トクマルシューゴ)
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